イギリス在住のピアニスト関治子さんを音楽監督として開催されたStudio26「イギリス音楽週間」の模様をお伝えします。
Studio26音楽企画の「イギリス音楽週間」は、札幌交響楽団副主席ヴィオラ奏者の青木晃一さんと関さんのデュオリサイタル《ヴィオラとピアノ~巨匠たちが愛した音色》で幕を開けました。有名なレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの「グリーンスリーヴズによる幻想曲」から、時代を追って、ベンジャミン・ブリテンの師としても知られるフランク・ブリッジ、女性作曲家への偏見を乗り越えて数々の魅力的な作品を残したレベッカ・クラーク、TYPHOONのメンバーとしても活躍するポール・コレッティのジャズやジプシー音楽を取り入れた楽しい作品が会場を盛り上げました。
続いて、札幌音楽家協議会の例会を兼ねて開催されたレクチャーコンサート《ヴォーン・ウィリアムズと1870年代生まれの仲間たち》には私も出演させていただきました。同じ時代を生きながら三者三様の視点を持った3人の作曲家たちの音楽と、彼らの生きたヴィクトリア朝時代後期からのイギリス、そして私たちの時代のイギリスの音楽事情や、私たちの卒業した英国王立音楽院での学生生活の思い出をご紹介させていただきました。関さんとは今回初めての共演だったのですが、私もたくさんのことを教わりました。イングランドの民族のアイデンティティに拘ったヴォーン・ウィリアムズの著書『国民音楽論』について解説していただき、インド哲学や占星術など未知の世界に興味を募らせたグスターヴ・ホルストは関さんが現在イギリスで教鞭をとっているモーリー・カレッジの学長先生だったそうで、話が弾みました。そして、会ったことのない黒人の父親のルーツを探し求めたサミュエル・コールリッジ=テイラー(詩人のサミュエル・テイラー・コールリッジとは別人)は近年イギリスでも再評価が進んでいるそうで、またの機会に他の作品もご紹介できたらと話しています。
関さんによる《イギリス風公開レッスン&ワークショップ》は、私たちが学生時代に経験した授業 Performance Class のような対話のある公開レッスンでした。バッハ、ベートーヴェン、ショパン、リストのピアノ作品が演奏されました。休憩を挟んですぐに開催された関さんのトークコンサート《ピアノで語るイギリスの変容~20世紀~》では、オリエンタリズム溢れるウィリアム・オルウィンの「睡蓮」に始まり、戦争、人種差別問題、核の問題にまで踏み込んだ、内容の濃いトークコンサートでした。音楽がコミュニティー作りの一翼を担うというイギリスでの演奏活動のお話も、私も留学時代にあちこちの教会などで演奏させていただいたことを懐かしく思い出しながら聞かせていただきました。
最終日には、関さんとのデュオリサイタル《ヴァイオリンとピアノで奏でるイギリスの抒情~ヴォーン・ウィリアムズ生誕150周年~》をお聴きいただきました。コンスタブルの絵画の風景が思い浮かぶようなヴォーン・ウィリアムズの隠れた名曲「ロマンスとパストラール」と、おそらく同じ頃に作曲された「舞い上がるひばり」を中心に、ホルストの軽やかな5つの小品「無言歌」「春の歌」「挨拶」「マヤ」「ワルツ・エチュード」、エルガーの人気曲「朝の歌」、そしてコールリッジ=テイラーの組曲Op.3より「カヴァティーナ」をお楽しみいただきました。
この機会に聴かせていただいた関さんのサン=サーンスのピアノソロCDも聴き応えがあり、お薦めです。
札幌市中央区内でこんなにも間近でじっくりとクラシック音楽を楽しむことのできる Studio26(南26条西8丁目3-30)に、ぜひ一度足を運んでみてくださいね。http://roberco.tea-nifty.com/access/
(岩渕)
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