淡い愁いを帯びたブラームスの歌曲「雨の歌」(1873)。雨と共に呼び覚まされる幼少時の美しい記憶をうたったグロートの詩に付曲されたこの作品は、クララ・シューマンへの誕生日プレゼントだったそうで、「クララ・コード」とも言われるメッセージ性の強い動機(画像上段の赤丸参照)が隠れています。この動機は、ルネサンス期ドイツのハスラー(1562-1612)の世俗歌曲 Mein G’müth ist mir verwirret「我が心は千々に乱れ」の主題が後にバッハのマタイ受難曲(1727-29)に用いられたもので、ブラームスはこの動機を自らの人生を重ねるかのように繰り返し引用しています。
決して鬱陶しくない心潤す雨の情景が目に浮かぶようで、でも、どことなく漂う物哀しさに心を揺さぶられる旋律を、ショパンのピアノのための前奏曲「雨だれ」(1838-39)と比較してみたいと思います(画像下段の赤丸参照)。赤丸部分が「クララ・コード」に当たりますが、その後の赤括弧部分まで、完全4度、長2度、長2度、短2度、長2度、長2度、短2度の順で、全くの反行形になっているのです。偶然なのか意図されたものなのか、想像は膨らむばかりです。
岩渕
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